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Journal

2026.04.08

連載:わたしを歩く |歩むほどに、内なる自分と出会う旅。料理人・野村友里の「eatrip」な生き方

歩くこと、寄り道をすること——その一歩の積み重ねが、知らなかった世界や思いがけない人との出会いを連れてくる。結果として、歩むという行為そのものが人生を豊かにしてくれる。それは、オッフェンが大切にしているフィロソフィのひとつです。自分の足で歩き、その途上で出会ったものによって変えられていく人生観——「旅」というひとつの区切りを通して、その軌跡を魅せてもらう新連載<わたしを歩く>。第一回目のゲストは、食を通した表現者「eatrip」主宰の野村友里さん。既存の枠組みを軽やかに踏み越えながら、人間活動の根源へと歩を進めてきた、野村さんの終わりなき探求の物語を紐解きます。

 

外に出て、内を知る。和食の神髄が息づく出会い

 

野村さんがこれまでの歩みのなかから選んでくれたのは、母・野村紘子さんを迎えて行われたサンフランシスコの「Rintaro」でのお料理教室のひと幕でした。シェフであり友人のシルヴァン・ミシマ・ブラケット氏が、お店を構えてすぐのこと、以前から和食や四季にまつわる真理を学んだ紘子さんに教室を頼んだのだとか。彼との交流は、店を構えるずっと前から続く、長い時間を共に歩いてきた間柄でもあります。

料理人歴40年の野村紘子さん。Coccoさんの愛称を持つ。日本料理を四季のおもてなしやしつらえとともに紹介する『受け継ぎたいレセピ』著

料理人歴40年の野村紘子さん。Coccoさんの愛称を持つ。日本料理を四季のおもてなしやしつらえとともに紹介する『受け継ぎたいレセピ』著

料理人歴40年の野村紘子さん。Coccoさんの愛称を持つ。日本料理を四季のおもてなしやしつらえとともに紹介する『受け継ぎたいレセピ』著

料理人歴40年の野村紘子さん。Coccoさんの愛称を持つ。日本料理を四季のおもてなしやしつらえとともに紹介する『受け継ぎたいレセピ』著

「宮大工の父と日本人の母を持つ彼は、自身のルーツである日本文化の神髄を深く理解しようとしていたんです。四季折々の器の使い方を学びながら、感覚的なものだけではなく『折敷(おしき)の木目は横に』とか『角まえ丸向こう』といった、おもてなしだけでなく、ものごとの意味も含めて学んでいました。月日が流れてすごく素敵な和食屋さんをオープンさせるんですけれど、そこに一度うちの母を呼びたいと行ってくれて、和食の教室をさせてもらいました」

海外で日本文化の奥深さに触れた経験は、友里さん自身の“歩き方”にも大きな影響を与えました。『刺激を求めて外へ歩み出したはずが、逆に日本のことを知らなければ何も伝えられないという事実に気づかされた』とか。その思いを深めたのは、カリフォルニアの名店「シェ・パニース」でのインターン経験。そこで出会ったのは、3世代前にブラジルなどを目指した日本の移民たちが流れ着いて根を下ろした地に築き上げてきた農地や、その野菜を使うレストランで働く日系人の若者たち。彼らもまた、それぞれの足で長い距離を歩き続けてきた人々でした。「外に行って、内を知る」。その言葉の本当の意味を、友里さんは身をもって体験したのです。

 

「自分が半分日本の血が入ってるから、流行りとか形だけじゃなくて、もっと深いところから知りたい」と言い、出汁を鰹節から削っていたシルヴァンさん。その民族や祖先が暮らしてきた風土や培ってきたしきたりに厳しい姿勢で向き合い、本物を追求する姿勢に野村さんも共鳴したのだとか。
「そういう“郷”の中で呼ばれるっていうことが、文化や人の循環につながるなと思って、とても嬉しかったんですよね。だから『外に出て、内を知る』という歩き方も、わたしにとってはとても大事な道のりなんです」

「距離とうまく付き合うほど大切なものが見えてくる」

2004年に始まった友里さんの活動「eatrip」は、移動する歩みだけでなく、記憶のなかを歩く時間、内なる探求へと歩を進める時間——あらゆる“歩み”を内包しています。当初は活動ごとに違う名前をつけようと思ったこともあったそうですが、結局はすべて「eatrip」という一つの言葉に収斂されてきたとか。

 

「歩き始めるきっかけって、気分転換や、ちょっと知らない世界を見たい、というささやかなものだったりします。でも、結局、離れるほど内面がすごく見えてきたりするものだと思うんですよね。ある先生がおっしゃってたんです。『近くなればなるほど喧嘩とか嫌なところが見えてきちゃうけど、大事にしたければするほど、一回離れてみるとまた全体が見えてくる』って。人も場所もそうなんじゃないかなと思うんですよね。一回家を離れると家のありがたみがわかったり、親とか故郷もそう。歩いて離れてみてはじめて、近くにあるものの輪郭がくっきり立ち上がってくるんです」

祐天寺にあるbabajiji houseでは、食事を楽しんだり、グッズや花を購入できる

オッフェンはsquare-CUBICA LACEのBLACKをチョイス

赤い靴下を合わせることが多いそう。アクセントになってオシャレ

料理人としての哲学は「エネルギーのマッチング」

生産者を訪ねて全国を歩いてきた、その敬意と愛がじんじんと伝わる、野村さんの著書『会いたくて、食べたくて』。2024年には『とびきりおいしい おうちごはん』が「料理レシピ本大賞」でこどもの本賞を受賞する傍ら、音楽フェス「森、道、市場」では、音楽家や職人、医師らと共に「eatrip soil sounds blow」と題したステージを創り上げ、食と音楽、そして根源的な生を融合させたパフォーマンスを披露。展覧会や音楽会など様々なイベントを仕掛ける“己を自ら導く歩き手”として、料理を通して何を表現したいのでしょうか。

 

「昔は誰よりも美味しそうだったり、素敵な料理を作りたいっていう時もあったと思うんですけど、今は『モーメント』、つまり誰かが食べながら時間を共有する、その瞬間に興味があります」

 

食材は単なる物質ではない、と野村さんは言います。北海道の山奥で山ぶどうだけを食べて育った鹿の肉を口にすれば、その景色や空気、水の記憶まで一緒に味わうことになる。それは、ケージの中で育った鶏の卵とは全く違う「エネルギー」を持っている、と。

「その鹿が根室で育った6歳の鹿だとすると、その景色と水と記憶も一緒に食べたような、根室に行ったことがあるような気分になる。そっちの方が豊かじゃないですか。オホーツク海の風を浴びながら頑張って産んだ卵の方が、ケージから一度も外に出たこともなくて毛も抜けちゃってるような鶏が産んだ卵よりも、合わさった時に倍生きられる気がする。それがエネルギーなのかなと思うんですね」

 

食材が持つストーリーやエネルギーと、食べる人との間にどんな化学反応が起きるのか。そのマッチングを楽しむことこそが、野村さんの料理人としての喜びであり、哲学です。

 

「ワイルドな音楽を作ってる人が、このワイルドな肉を食べて何にも思わないわけないよなと思って食べさせると、3倍の反応が来たりする。そうすると、『ヨッシャー!やっぱり気づく人だよね』となる。ちゃんとした⼿応えを感じると、つながったその先が⾒てみたいと思ってしまうんです。

 

音楽とかお祭りってあるじゃないですか。人間がもうどうしようもなくなった時って、食べて寝て、作物を採って、宴(うたげ)をするところから始まる。とても根源的なのかなとは思うんです」

食事は、言葉や形に残らなくても、感情や記憶、そして人と人との繋がりを生み出す力を持っている。お母さんのお弁当、落ち込んだ時に作ってもらったスープ。栄養素だけではない何かが、私たちの心と体を育んできました。

 

「いろんな武器を持たずして、たくさん説明しなくても伝わることがいっぱいある。いろんなことを試しながら料理を面白がっているのかもしれないですね。もっと美味しい料理を作る人もいっぱいいる中で、こうやって仕事としても成立しているのは、いろんな美味しさがあるからだと思います」

 

日本の101の生産者を巡った『会いたくて、⾷べたくて』を出版したのは2021年。世界中の作り手のところへ自らの足で出向く野村さんのキッチンに並ぶのは、場所や時間はもちろん、感覚や文化へ一瞬でトリップさせてくれるものばかり。そんな彼女の足元について聞いてみた。

 

「歩くときの靴は、軽さと、厚底のものを選ぶようにしています。オッフェンの靴は軽くてとても履き心地が良いです。靴の素材は、それまでわらじぐらいしか気にしたことがなかったんですが、ペットボトルのリサイクルでできているところに共鳴しました。洗えるし、軽いので、長く歩く日にもすごくいいですよね」。

 

その足で歩いていく根源的な探求が、私たちの食卓に、そして人生に、新しい景色を見せつづけてくれる。野村さんが全身全霊で形にしてくれている本質的な豊かさは、一歩ずつ歩むことでしかたどり着けない真の心地よさへと繋げてくれる気がします。

 


 

野村友里さんが履いているシューズはこちらから

 


 

プロフィール

 

料理人・アーティスト 野村友里

全ての調理行程を写真で撮影し、全編イラストに。異例の工数で創り上げた『とびきりおいしい おうちごはん』が「料理レシピ本大賞」でこどもの本賞を受賞。2025年には、GYRE GALLERYでの展覧会シリーズ最終章「Life is beautiful : 衣・食植・住」を成功。2019年には、銀座の地下水と人々の声で野菜を育てる実験的なプロジェクト「eatrip city creatures」を手がけるなど、常に革新的で、食を軸にアート、音楽、環境など多様な領域を横断。2025年、中目黒にbabajiji house、eatrip kitchenをオープン

 

Instagram:@eatripjournal

 


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photographer: CHIZURU MAEDA
editorial director: YUKA SONE SATO(LITTLE LIGHTS)