心地よい未来に向かうために。オッフェン代表・岩本が描くこれから

「お客様、つくり手、そして地球環境に対して愛を持って誠実に向き合う」。このあり方で、長く愛してもらえるものづくりをスタートして6年目。環境や社会への配慮を総合的に審査する国際認証「B Corp」を取得した2026年、会社として見据える未来のことを株式会社Norms代表の岩本英秀と考えてみました。
「一歩ずつ、心地いいほうへ。」を合言葉に、2021年にデビューしたÖffen(オッフェン)。全く新しい靴づくりのために、工場と開発して基盤を根底から覆すようなシステムをイチから創り上げました。その結果できた、使用済みペットボトルから再生した糸で編み上げるアッパーは、一枚のニットを織るように成形するため裁断くずが出ません。パーツの数は一般的なパンプスの約半分。販売時にご提供するシューキーパーは、通常厚紙などで覆われていますが、トウモロコシなど植物由来の土に還る素材を採用。靴箱の代わりにタオルでお包みし、リユースバッグでお渡しすることで、ゴミを最小限にしています。こういった、「地球環境に配慮したものづくり」を細部まで貫きながら、気軽に履けるファッションシューズとして多くのファンを増やしてきました。通過点であるB Corpの獲得を達成した現在、そしてこれからに向けて描くヴィジョンについて聞いてみました。

B Corp獲得。現在の率直なお気持ちをお聞かせください。
もちろん嬉しい気持ちではありますが、それ以上に身の引き締まる想いです。私たちはオッフェンを立ち上げた当初から「環境に配慮したものづくり」と同じくらい「永く愛されるブランドを育てる」ことを大切にしてきたと思っています。今回のB Corp認証は、スタッフやお客様、取引先様と重ねてきたものに、ある一定の評価をいただいたんだと感じています。
B Corpを獲得することは、Normsにおいてどのような重要性を持っていますか?
企業として利益を生み出すことも大切ですが、その利益をどの様に生み出しているのか、これからの時代はより問われるようになると思います。社員、お客様、取引先、社会、地球環境。その全てに責任を持つ企業であり続けるための一つの指標として、B Corpは大きな意味を持つと考えます。
世界的にはサステナビリティから方向転換する企業も見られる中で、オッフェンの現在地をどう捉えていますか?
立ち上げの頃から、いずれは「土に還る靴」を完成形にしたいという話をしてきましたが、実は今もずっと実験を続けているんです。海外の化学材料メーカーの協力を得ながら、かれこれ2年半ほどサンプルづくりを重ねています。靴である以上、足当たりや硬さといった問題をひとつずつ解決していかなければいけない。分かってくるほどに、そう簡単なものではないなと。それでも、本当に一歩ずつ進んでいくしか方法はないのかなと思っています。
ペットボトルから作られた糸でニットのシューズを作っても、お客様が履かれて、5年先か10年先には、やっぱりゴミになってしまう。そこも同時に見ながらものづくりをしていかないと、という思いがあったので、究極はそこだなと思いますね。

その間も店舗は着々と増えています。あえて急拡大しない、という考えがあるのでしょうか?
ファッションビジネスでは、スピード感を持って知名度を広げていくことはすごく有効な手法だと思います。ただ、素材メーカーさん、工場、日本側の販売スタッフといった皆さんは、少しずつしか良くなっていけない。急拡大して世界に店舗、というのはオッフェンのイメージとは違うなと、違和感を感じるんですね。素材も本当に少しずつしか良くなっていかないので、皆さんと同調しながら、少しずついい方向に向かえばいいんじゃないかなと思っています。
ゴミを出さないものづくりの仕組みをつくり上げるうえで、一番の苦労はどこにありましたか?
作り手の理解ですね。最初は全然理解されませんでした。「ゴミを出さないような設計をします」と言うと「え?」という反応で、「従業員を長時間働かせないでください」と言うと、先方の社長さんは「なんで?」なんですよ(笑)。それまでの10年、20年は「どれだけたくさん作れるか」「どれだけコストを抑えられるか」を一緒に追いかけてきた相手に、今度は反対のことを言い出したわけですから。だから説得するよりも、「3年経ったら、やって良かったと思ってもらえるはずです」と、1年、2年、信じてついてきてもらうしかないなと。
今では変化を実感されていますか?
工場のゴミの処理は割と早く協力してくれるようになって、今ではもう全然普通です。従業員もゴミの分別を当たり前にしますし、もしかしたら日本人より早くしているかもしれない。そこは逆に驚きですね。中国の社会も変わってきていて、学校での環境教育は、もしかしたら日本よりも進んでいるんじゃないかという気がします。世界中の靴や産業のものを中国で作っているわけですから、そこをクリアしないとビジネスとして続かないという意識もあるんだと思います。
現在は、どんな企業努力を続けていらっしゃいますか?
地道なマイナーチェンジです。靴はどうしても、足に当たって痛いといった不具合が少しずつ見えてくるので、1ロットの出荷が終わるごとに店舗から声を吸い上げて、次の生産ではより良く。同じ品番でも、年に1回、2回は必ず改良しています。
それから、パートナーシップですね。ひとつのイベントを企業さんと一緒にやると、学びがすごく多い。さらに、現場のスタッフから上がってくる情報も含めて、私自身が勉強させられています。
靴を越えて文化を創り出すプラットフォームへ
9月にはアパレルがスタートします。さらに、「Öffen BOOK CLUB」や、他ブランドの端材をアップサイクルする「REBORN PROJECT」など、靴の枠を超える取り組みも続いています。こうした境界を広げる活動をどう考えていらっしゃいますか?
6年目になるわけですが、1年目と6年目では、私も、プロデューサーの日坂(さとみ)も、スタッフのみんなも、やっていることも考えていることもずっと違うと思うんですね。これがすごくいいことだと思います。2月が来れば、3月が来れば去年と同じことをしよう、という会社では全然ないので。そこがうちのいいところだなと。
できたら「作業」という仕事ではなくて、一人ひとりが考える会社のほうが、時代に合わせて成長していけるでしょうし、そんな会社であってほしいなと思います。1年が終わるたびに扉を開けるような感覚なんです。扉を開けたら、また新しい扉がある。もうその連続のような感覚ですね。
サステナビリティを購入のきっかけにするのではなく、素晴らしいデザインから「本当に欲しい」と思えるものを生み出し続けています。こだわりのデザイン環境はどのように生まれているのでしょうか。
オッフェンを始める以前は、売ることが考えることの100でした。お客様から注文をいただけるいいデザインの靴を作り、安全に納品する。OEMとしてはそこまでが仕事だったんです。現在は、売ろうとして靴を作るのではなく、オッフェンに共感し、ファンになってもらって、商品を長く愛用してもらえるのが、ビジネスにとってもすごくいい形だと思っています。そこは随分変わったような気がしますね。
日坂のデザイン力には、他との大きな違いを感じています。OEM時代、たくさんのデザイナーさんから仕様書が大量に届く中で、当時、取引先だった日坂が作る靴にいつも「少し違うな」と感じていたんです。仕様書を見れば出来上がりは大体想像できるものなんですが、日坂の靴はいつも予想外で、それでいて、ちゃんと可愛らしく収まっている。私にはできないような色合いや新鮮さがあって、そこはすごい魅力でしたね。「誰がこんなことを考えたんだろう」って、ついつい思ってしまう。そういうリスペクトは今でも感じています。
時代を切り撮る、余白のまなざし
岩本さんご自身は、ファッションの流れをどうご覧になっていますか?
その時代で装いは全く違ってくるわけで、その変化のほうが面白いなと思っています。つい2、3日前も木型の職人さんと話していたんですが、人間の足の形もすごく変わってきているんです。40年、50年前の木型と比べると、今の日本人女性の足はすらっと指が長い西洋人の足に近づいている。同じ23.5cmの木型でも、今の子は背も高くなっているので、靴の長さを少し伸ばさないとバランスが悪かったりする。生活様式の変化が、足元にも表れているんですね。
この先10年、20年経つと、また皆さん全然装いが変わっているでしょうし、そういう流れを感じる、見るのが好きなんですね。街を歩く人のコーディネートもすごく参考にします。こんな丈のコートをこう合わせるんだなとか、何歳ぐらいの方がこういう靴を履きだしたなとか。
カメラがお好きだと伺いました。時代の流れを切り撮ってこられたのでしょうか?
始めたのは20代、学生の頃ですね。出かける時は必ずカメラを持っていました。昔は暗室を作って、月に1回は夜中ずっと現像していた時期もあったんです。
撮るのは、街の人ですね。上海に行った時は、まだ長屋が点在していた頃の街の姿を収めたりしました。10年、20年経って見ると、その時の着ている服や走っている車に、時代の空気感が残っているんですよ。だから風景だけじゃなくて、人を撮りたいんです。
面白いもので、カメラを持っていこうと思えば分かるんですよ、「ちょっと余裕があるな」って。心に余白がない時は、持っていかないんです。
そうした視点は、神戸・北野のお店の世界観にも通じているのでしょうか?
この建物は安藤忠雄さんの初期の建築なんです。コンクリートとレンガでできていますが、空間の取り方や自然光の入れ方は非常に安藤さんらしいと感じています。もともと私邸なので公式に公表されていないんですが、建築がお好きな方にも訪ねてきてほしい場所ですね。
古いものは昔から好きで、20代でヨーロッパに行くと、古い建築物に憧れました。200年前、日本では江戸時代。その時にこの教会を造ったんだなという、尊敬の念が湧き上がります。好きなのはドイツのバウハウス建築。合理性があって、今見ても飽きないデザインだし、美しい。フランスのアールデコ様式も好きですね。とはいえ、サグラダ・ファミリアはあれはあれで天才だなと思う。どんなタイプのものであれ、作った人はすごいなと思ってしまいます。
作り手の信念の深さは、使う側にも伝わります。お気に入りの一足を教えてください。
J.M.ウェストンというフランスの革靴です。頻繁には履きませんが、足を入れると「今日は1日ちゃんとしないといけないな」と思うんですね。それに、最初から20年、30年履いてもらうことを前提としたものづくりをしている。オッフェンも将来、長く愛用していただける靴を考えることが、やっぱり大事だと思うんですよね。
「透明の箱」のような会社にしたい
オッフェンを、これからどのようなブランドにしていきたいですか?
次の5年後では、私たちの商品はもとより私たちの考えかたが広く認知されることを考えて行きたいと思っています。事業を成長させることは大切ですが私たちは売上げや店舗数だけを成功の指標とするのではなくお客様、取引先、生産者、社員そして地域社会など私たちに関わるすべてのステークホルダーが「オッフェンと関わって良かった」と感じてもらえる企業になっていたい。
また社員一人ひとりが誇りを持って働ける会社であることも重要な目標です。社員が成長し、その成長がブランドの価値となりお客様にもそれが還元される。ブランドを大きくするよりも「ブランドを深くすること」を考え行動していくのが次の目標です。
満足することは、多分ないんだと思います。変化し、改良し続けていかないといけない。会社自体も、時代とともにより良い形に方向転換させていく必要があると思っています。目標をポンと立てて、どうやって直線距離で行くかと考えるのが昔の私のやり方でしたが、今は少しずつ積み上げて形作っていく感じがあります。日坂の影響でしょうね。近くで話して、一緒に考えて、実は勉強になっているのは僕のほうなんですよ。
Normsという会社を作った時、「透明の箱」のような会社にしたいというイメージがありました。創業者の名前も書いていない、色もついていない透明の箱。中で働く人たちが主人公で、活躍する人が出て、いずれは私も卒業していく。そしてまた次に入ってきた人が活躍する。そういう人の循環がある、私の名前の書いていないような会社を作りたかったんです。
最後に、オッフェンが目指す世界とは?
今、世界中で戦争が起こっているじゃないですか。ああいうものが本当になくなっていく世の中になってほしい。結局、個人も国も、お金で争いになっている。そういうことを超えた価値観を持てるような世界になればいいのになと思います。
以前パリに住んでいたこともあって、最終的には私がパリ1号店の店長をやりたい、というのは当初から今でも変わらず思っています(笑)。
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Öffen Journal Editorial Team
Photographer: TSUTOMU YAHARA
Text: YUKA SONE SATO
Editorial Direction: LITTLE LIGHTS